KNOWLEDGE
脳の知的活動でのおおもととなる認知機能が、日常生活に支障をきたすほどに低下した状態が「認知症」です。その症状は様々です。
認知症とは、それまで正常に機能していた認知機能(参照:脳の機能と認知機能)が低下してしまい、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を言います。
その主な原因となるのが加齢や生活習慣病です。加齢や生活習慣病により脳の血流が低下することで神経細胞の働きが鈍化したり、死滅するなどして神経回路が正常に機能しなくなります。
神経細胞が死滅してしまう他の原因として注目されているものに「アミロイドベータ」という脳内で作られるタンパク質です。神経細胞が働くとその周囲にアミロイドベータが作られます。正常な場合はすぐに分解されて排除されますが、加齢などの原因によりうまく分解されなくなると神経細胞の周囲に蓄積されていきます。これにより神経細胞に炎症が起こることで細胞が傷害されるとともに、内部で細胞の形状を安定化させる働きのある「タウタンパク質」と呼ばれる物質を変性(リン酸化)させ、神経細胞がその形状を維持できなくさせることで神経細胞を死に至らしめます。神経細胞の炎症・死滅が広範囲に持続的に起こることで徐々に脳の機能が障害されていきます。こうした脳の神経細胞の変性は10~20年程度の非常に長い期間をかけて起こるとされています。
認知症の代表的な症状(中核症状)には、「記憶障害」、「理解・判断力の障害」、「実行機能障害」、「見当識障害」があり、それに伴ってあらわれる「行動症状・心理症状」があります。(下図)
これらの症状でも「記憶障害」は非常な身近なもので、程度の差こそあれ、加齢とともにもの覚えが悪くなったり、以前のことを思い出しにくくなったりします。その中でも正常な状態を「もの忘れ」と呼び、病的な記憶障害を伴う「認知症」とは明確な区別されますので注意が必要です。
認知症は原因などによっていろいろなタイプに分類されます。代表的なものとしてアルツハイマー病がよく知られており、認知症全体の半数を占めています。タイプによって症状の現れ方や進行の仕方、治療方法などが変わり、原因によっては根本的な治療や予防も可能なため、正確な診断を受けることが大切です。
概要:
脳内にたまった異常なタンパク質(アミロイドベータやリン酸化タウタンパク質)により神経細胞が破壊され、脳に萎縮が起こります。脳内でのアミロイドベータやリン酸化タウタンパク質の蓄積は、認知機能が低下する10年、20年前から始まっています。
症状:
昔のことは覚えていますが、最近のことは忘れてしまいます。軽度のもの忘れから徐々に進行し、やがて時間や場所の感覚がなくなっていきます。
概要:
脳(大脳)の内部に「レビ-小体」という特殊なタンパク質により脳の神経細胞が破壊され、起こる病気です。
症状:
現実にはないものが見える幻視や、手足が震えたり筋肉が固くなるといった症状が現れます。歩幅が小刻みになり、転びやすくなります。
概要:
脳梗塞や脳出血によって脳細胞に十分な血液が送られずに、脳細胞が死んでしまう病気です。高血圧や糖尿病などの生活習慣病が主な原因です。
症状:
脳血管障害が起こるたびに段階的に進行します。また障害を受けた部位によって症状が異なります。
日本の65歳以上の高齢者が認知症にかかっている割合は増加し続けていると考えられています。2012年に全国8市町で行われた調査に基づくと、高齢者の400万人がMCI(軽度認知障害)、462万人が認知症と推測されています。年齢別にみると、75歳以降で急激に増えていることが分かります。別の調査研究では、2025年にMCIは584万人、認知症は730万人まで増加すると推定しています。
MCIは適切な対策をとれば最大で半数近くが健常な状態に戻るとされます。認知症の代表疾患であるアルツハイマー病は、認知機能の低下が症状として現れるまで、原因となる異常なタンパク質が脳細胞に蓄積を始めてから10~20年かかります。そのため、こうした原因を少しでも減らすなどの早期の予防対策が重要です。
認知症の原因にはさまざまなものがあり、その多くは生活習慣病や加齢といった身近なものです。遺伝が関係する認知症もごくわずかながら存在しますが、ほとんどの認知症は遺伝とは全く関係がなく、加齢に伴い誰しもがかかる可能性があると考えられています。そのため、家族に認知症の方がいたとしても心配しすぎる必要はなく、認知症の予防などに取り組み、早期に気づくことが重要とされています。
概要:
脳内にたまった異常なタンパク質(アミロイドベータやリン酸化タウタンパク質)により神経細胞が破壊され、脳に萎縮が起こります。脳内でのアミロイドベータやリン酸化タウタンパク質の蓄積は、認知機能が低下する10年、20年前から始まっています。
症状:
昔のことは覚えていますが、最近のことは忘れてしまいます。軽度のもの忘れから徐々に進行し、やがて時間や場所の感覚がなくなっていきます。
概要:
脳(大脳)の内部に「レビ-小体」という特殊なタンパク質により脳の神経細胞が破壊され、起こる病気です。
症状:
現実にはないものが見える幻視や、手足が震えたり筋肉が固くなるといった症状が現れます。歩幅が小刻みになり、転びやすくなります。
概要:
脳梗塞や脳出血によって脳細胞に十分な血液が送られずに、脳細胞が死んでしまう病気です。高血圧や糖尿病などの生活習慣病が主な原因です。
症状:
脳血管障害が起こるたびに段階的に進行します。また障害を受けた部位によって症状が異なります。
認知症におけるもの忘れのような記憶障害が出るものの症状はまだ軽く、正常な状態と認知症の中間程度の状態。
・記憶障害の訴えが本人または家族から認められている
・客観的にひとつ以上の認知機能(記憶や見当識など)の障害が認められる
・日常生活動作は正常
・認知症ではない
【出典】
1)Dodge HH, et al. Int J Alzheimers Dis. 2012;2012:956354.
2)Ikejima C, et al. Psychogeriatrics. 2012 Jun;12(2):120-3.
3)厚生労働科学研究費補助金 認知症対策総合研究事業. 都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応.平成23年度~平成24年度総合研究報告書. 2013.
4)厚生労働科学研究費補助金 厚生労働科学特別研究事業. 日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究.平成26年度総括・分担研究報告書. 2015.
5)日本神経学会. 認知症疾患診療ガイドライン2017.