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認知症は、現在のところ残念ながら治療は困難なため、予防する取り組みが重要です。日常に密接な食習慣や食品によって認知症の予防が期待できることがわかっています。
認知症には、その原因などによっていくつかのタイプに分類されますが、そのタイプによって治療方法が変わってきます。
認知症のタイプとして多い、アルツハイマー型やレビー小体型は現在のところ残念ながら「根本的な治療が難しい認知症」です。これらには「進行を遅らせる」ことを目標とした薬物治療を中心に、少しでも認知機能が維持されるように、リハビリテーションなども行われます。
一方で、血管性認知症や、認知症様の症状を持つ正常圧水頭症などは、その原因を取り除くことで治癒が期待されるため、正確な診断が重要になります。
このように、現代の医学では認知症に対する有効な治療法は限られているのが実情です。こうしたことからも、認知症を予防する取り組みが重要と考えられます。
認知症を発症する最大のリスク因子は「加齢」です。それに加え、最近の調査で高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、喫煙、身体活動、うつ病などの生活習慣病や生活習慣そのものと関係が強いことが分かってきています 。特に最も多いタイプの「アルツハイマー型認知症」との関係が明らかになってきており、生活習慣病の予防が認知症の予防にもつながると考えられています。
認知症を直接予防する有効な方法に確立されたものはありませんが、10~20年程度の長い期間をかけて発症することや、生活習慣の影響を受けやすいこともあり、日々の生活を通じた予防に注目が集まっています。生活習慣病同様に食事や運動、睡眠といった生活習慣を正常に改善し、ストレスを減らすことがその中心となります。また、知的要素(ゲーム、囲碁、麻雀、映画・演劇鑑賞など)、身体的要素(スポーツ、散歩、エアロビクスなど)、社会的要素(友達に会う、ボランティア活動、旅行など)といった余暇活動は認知症の発症を抑制する効果があるという報告が多くなされています。
こうした生活習慣の改善を通じた予防は、認知症を発症しやすくなる70歳代後半以降に向けて、40歳~50歳代から開始することが望ましいと考えられます。
認知症の予防に効果的な生活習慣の改善の中でも、「食習慣」は毎日欠かさず必要となる「食事」という日常生活に密接した習慣として、取り組みやすい認知症予防と考えられます。
例えば、地中海式料理では野菜や果物、オリーブオイルやナッツ、適量の赤ワインを飲む習慣があるとされ、地中海式の食事スタイルを続けるとアルツハイマー型認知症の発症リスクが53%低下したという報告があります。
日本人を対象とした疫学調査「久山町研究」(福岡県糟屋郡久山町の60歳以上の住民約1,000人を対象とした17年にもわたる追跡調査)では、認知症発症と食事パターンの関係が明らかになり、認知症のリスクを下げるために「増やしたほうがいい食品」と「減らしたほうがいい食品」がある程度明らかになっています。その中でも牛乳・乳製品の摂取量が大きいほど認知症発症率が低くなるという関係が認められており、食習慣に取り入れやすい食品として注目されます。
こうしたことから、食習慣の改善による認知症の予防は、もの忘れなどがあまり気にならない40歳代からも導入しやすく、将来的な認知症のリスクを減らすうえで効果の高い方法として期待されています。
【出典】
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